二重派遣は罰則のある違法行為|回避方法と相談窓口を知る
- 「これって二重派遣じゃないの?」
- 「二重派遣されているけれどどうすればいいんだろう」
- 「二重派遣に罰則はあるの?」
二重派遣は違法行為です。
なぜなら二重派遣は、間に入る会社が増えることで、契約内容や責任の所在がうやむやになったり、給料の中抜きが多くなったりして、派遣社員に不利益が生じる可能性も高いからです。
当記事では、
- 二重派遣とはどのような状態をいうのか
- 二重派遣を避ける方法
- 二重派遣された場合の相談窓口
について解説します。
当記事を読めば、二重派遣についての理解が深まり「どうやったら二重派遣されずにすむか?」「万が一されてしまった場合どこに相談すればよいか?」わかります。
二重派遣とは派遣会社から紹介された派遣先以外の会社で働くこと
という人もいるのではないでしょうか。
二重派遣とは、派遣会社(派遣元)から派遣社員を受け入れた企業が、その派遣社員を「自社」ではなく「他の会社」で働かせることです。
つまり、派遣社員が本来働くべきA社ではなく、再派遣先のB社から指示を受けて働いている状態を指します。
このような二重派遣は労働基準法第6条と職業安定法第44条で禁止されています。
ところが、当社が派遣社員として働いたことがある100人に「二重派遣をされたことがあるか?」と質問したところ、100人中10人が「ある」と回答しました。
10人に1人という数字を見ると、「二重派遣なんて自分には関係ない」とは言えなさそうですよね。
二重派遣が派遣社員に及ぼすデメリット
では、そもそも二重派遣はなぜ法律で禁止されているのでしょうか。
理由は派遣社員に及ぼすデメリットが大きいからです。
具体的には以下3つの不利益が生じる可能性も高くなります。
- 派遣社員の賃金が下がる
- 労働条件や業務内容が守られなくなる
- 問題が起こったときの責任の所在があいまいになる
1.派遣社員の賃金が下がる
二重派遣が派遣社員に及ぼすデメリットの1つ目は、派遣社員の賃金が下がることです。
なぜなら、仲介会社が複数入ることでそれぞれの会社に紹介料(仲介料)が発生し、派遣社員の賃金が中抜きされてしまう可能性が高いからです。
たとえば、東日本大震災における除染作業の際には、作業員が福島で作業にあたるまでに多数の業者が仲介し、六重派遣という多重派遣で関係会社が摘発されました。(参照:福島民報)
仲介に入ったそれぞれの業者がマージンを取っていたことから、作業員の日当は本来の金額より8千円~1万円ほども低くなっていたのです。
上記は極端な例ですが、仲介する会社が入ったぶんだけ紹介料が発生する数も増えるため、派遣社員の賃金は減ってしまいます。
2.労働条件や業務内容が守られなくなる
二重派遣が派遣社員に及ぼすデメリットの2つ目は、労働条件や業務内容が守られなくなることです。
本来、派遣社員の「労働条件」や「業務内容」は契約で決められており、契約と違う労働条件で働かせることや、契約にない仕事をさせることはできません。
上記の図で言えば、「雇用契約」「派遣契約」「派遣先から出される業務の指揮・命令」の内容は同じことになります。
ところが、派遣会社と直接契約を結んでいない派遣先B社が業務の指揮をとれば、B社の都合がよいように労働条件や仕事内容を変えてしまうこともあり得ます。
たとえば、契約内容は「9~18時勤務(休憩1時間)/データ入力」なのに、再派遣先の企業が、
- 「休憩は30分でいいよね」
- 「データ入力が終わったら倉庫の在庫整理してもらってもいい?」
などと勝手に指示するといったことです。
派遣社員の立場として現場の上司の指示に反論することは難しいため、派遣社員が不利益をこうむることになってしまいます。
3.問題が起こったときの責任の所在があいまいになる
二重派遣が派遣社員におよぼすデメリットの3つ目は、なにか問題が起きた際に、どこに責任があるのかわかりにくくなることです。
派遣社員・派遣会社・派遣先の三者で成り立っていた関係に再派遣先が関わることで、責任の所在が複雑化するからです。
たとえば、派遣社員が仕事中にケガをした場合、通常は派遣会社(派遣元)が労災保険の申請をします。
ところが、派遣会社とは契約を結んでいない派遣先B社の元でケガをしたとなれば、
- 直接仕事の指示を出したB社に責任があるのか
- B社に派遣社員を再派遣したA社に責任があるのか
- 派遣社員と雇用契約のある派遣会社に責任があるのか
といったことが、わからなくなってしまうのです。
二重派遣が多い仕事
アンケートで二重派遣されたことがあると回答した10人に「何の業種・職種で働いていたか?」聞いてみました。
その結果、二重派遣されやすい業種・職種には傾向があるとわかりました。
作業員は二重派遣になりやすい
製造業・軽作業・イベント設営などの作業員は二重派遣に気をつける必要があります。
なぜなら、作業員を必要とする職場の多くは、人手不足解消の目的で他社や子会社に人材を流すケースがあるからです。
たとえば、派遣会社から紹介されたA社で働いていたものの、「B社の人手が足らないみたいだから明日からはB社で作業してもらえない?」などと言われてB社で働くといったカタチです。
IT業界は二重派遣になりやすい
ほかの業種に比べて、IT業界は二重派遣になりやすいです。
なぜならIT系業界では、エンジニアが自社ではなくお客さまの会社に常駐して働く「客先常駐」が当たり前に行われているからです。
客先常駐であっても、仕事の指揮・命令を「派遣先」が直接行っている場合は二重派遣になりませんが、常駐先から指示を受けて働く場合は二重派遣となります。
実際のところ、客先に常駐していれば客先から指示を受けて働くケースが多いため、IT派遣は二重派遣になりやすい傾向にあると言えるでしょう。
請負契約や準委任契約は二重派遣になりやすい
請負契約や準委任契約は二重派遣になりやすいです。
業務の指揮命令が誰(どこ)から出されているのか、外部からではわかりにくいからですね。
そもそも請負契約や準委任契約とは、どのような契約なのでしょうか。
派遣契約もあわせて説明しますね。
- ●請負契約
- あるものを作成する、完成することをコミット(契約)する形態で、基本的に人数/場所/勤務形態等に制限、条件はありません。発注元から実施者への直接指揮命令はできません。
- ●委任(準委任)契約
- 上記請負のように完成形や数的納品ができない業務に対して、作業時間等を基準として契約する形態。システム開発等における上流工程の要件分析や企画などはスタート時に完成形がないためこのような形態で契約します。基本的に人数/場所/勤務形態等に制限、条件はありませんし、発注元から実施者への直接指揮命令はできません。
- ●派遣契約
- マンパワーグループ提供に関して契約する形態で、人数/場所/勤務形態等が規定されます。発注元(派遣先)から実施者(派遣従業員)への直接指揮命令をします。
「請負契約」や「準委任契約」を総称して「業務委託契約」といいます。
「請負契約」や「準委任契約」の特徴として、仕事の発注者が労働者に仕事の指示や指揮命令をしてはダメということが挙げられます。
もし、発注者が労働者に指揮命令をしていたときは「偽装請負」となります。
わかりにくいところがあるので、具体的な例を挙げて説明します。
たとえば、家を建てるとしましょう。
初めに、建築会社と「請負契約」を結びます。
契約をしたあと発注者(自分)は、建築会社の社員に「出勤時間」や「家の建て方」などの指示は出しませんよね。
そして建築会社は、家を完成させて発注者へ家を引き渡します。
これが普通の「請負契約」となります。
上記のことを派遣会社と派遣社員の関係に置き換えてお話していきます。
たとえば、
- 派遣元(派遣会社)が紹介した派遣先企業をA社
- 派遣先企業A社と請負契約(発注者)している企業をB社
とします。
派遣会社から派遣先A社を紹介されたのに、実際はA社と請負契約をしているB社で働き、仕事の指揮命令もB社から出されていたとしたら、「偽装請負」になります。
反対に、上記の状況でも仕事の指揮命令をA社が出していたとしたら、「偽装請負」にはなりません。
「偽装請負」になるかの判断は難しいところもありますが、「請負契約」や「準委任契約」などの「業務委託契約」の場合は、誰から仕事の指揮命令を受けているかがポイントとなります。
偽装請負は二重派遣の逃げ道として行われることがある
偽装請負は二重派遣の逃げ道として行われることがあります。
なぜかというと、派遣事業は許可がなければできませんが、請負契約であれば許可がなくてもでき、違法にならないからです。
派遣事業は、厚生労働大臣の許可がなければ業務はできませんが、「請負契約」として派遣先企業が請負契約先の企業で働かせることは二重派遣には該当しないため、行えます。
しかし先ほども述べたように、請負契約先の企業が派遣スタッフに仕事の指揮命令をした場合は「偽装請負」になります。
つまり、「請負契約」と言っていても、やっていることは二重派遣と同じですね。
「二重派遣」や「偽装請負」は違法行為なので、違反すると罰則が科せられます。
派遣と出向は似ているが雇用契約は違う
と思う人もいるのではないでしょうか。
派遣と出向は働き方が似ていても、大きな違いがあります。
派遣と出向では雇用契約の結び方が違うからです。
- ●派遣社員の雇用契約先は派遣会社(派遣元)
- 派遣社員は派遣会社(派遣元)と雇用契約を結び、派遣先企業で働きます。このときの仕事の指揮命令は「派遣先企業」から出されます。
- ●出向社員の雇用契約先は出向元企業
- 出向社員は出向元企業と雇用契約があり、出向先企業で働きます。このときの仕事の指揮命令は「出向先企業」から出されます。
上記の説明を見ただけでは「何が違うの?」と思いますよね。
派遣社員は派遣会社(派遣元)と雇用契約を結んでいますが、派遣先企業とは雇用契約を結んでいません。
反対に、出向社員は出向元と雇用契約を結びつつ、出向先の企業とも雇用契約を結んでいる場合があります。
このことを「在籍出向」といいます。
さらに、グループ会社や資本関係がある会社に出向することが多いですよね。
上記のことに加え派遣社員と出向社員は次のような違いがあります。
- 雇用契約:派遣社員は派遣会社(派遣元)と、出向社員は出向元と出向先と雇用契約を結んでいる場合がある。
- 雇用期間:派遣社員は3ヶ月~半年程度と数ヶ月単位は多いが、出向社員は年単位が多い。
- 労働時間:派遣社員はあらかじめ契約書で決められているが、出向社員は出向先が労働条件を変更できる。
再出向は二重派遣ではない
派遣と出向は似ていても違うことがわかりました。
それでは再出向は、二重派遣になるのでしょうか。
出向先企業が出向社員を他企業へ出向させることは二重派遣の構図とよく似ているけど、再出向は二重派遣と言えません。
派遣社員は派遣先企業と雇用契約を結んでいないのに対して、出向社員は出向先企業とも雇用契約を結んでいるため二重派遣にはならないからです。
法律的には問題ないものの、出向はグループ内や資本関係のある企業同士で行われることが多いです。
そのため、一度出向元に戻ってから新たに出向させたほうが、出向元・出向社員・出向先の三者にとってトラブルが起こりにくいです。
二重派遣の罰則は懲役または罰金|ただし罰せられるのは派遣先
二重派遣をした場合、
- 二重派遣をした「派遣先」
- 二重派遣だと知っていて受け入れた「再派遣先」
に、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
と心配な人もいるかもしれませんが、罰せられるのはあくまでも「派遣先」であり、派遣会社(派遣元)や派遣社員ではありません。
なぜなら、二重派遣は派遣会社が知らないうちに派遣先が勝手に行っているものだからです。
そもそも、二重派遣によって派遣会社が得られるメリットは全くないため、派遣会社が率先して行うことはまずありません。
派遣社員に関しては、むしろ不利益をこうむった被害者となります。
二重派遣でメリットを得るのは派遣先のみなので、気づいたらすぐにしかるべき機関に相談・通報しましょう。
二重派遣に気づいた場合の相談・告発先
では、二重派遣に気づいたらどこに相談すればよいのでしょうか。
結論から言えば、まずは派遣会社に相談しましょう。
大抵の場合、派遣会社に相談することで問題は解決するからです。
派遣会社は派遣先に事実確認をし、事実であれば「改善させる」「契約を終了させる」といった対策を講じてくれます。
二重派遣をされたことがある10人に「二重派遣をされた時にどこかに相談をしたか」聞いたところ、半数が「相談した」と回答しました。
また「相談した」と回答した5人全員の相談先は派遣会社であり、そのうち4人は相談した結果「二重派遣ではなくなった」と回答しています。
派遣会社に相談しても動いてくれない、改善されないといった場合は、派遣会社を管轄している「ハローワーク」や各都道府県にある「労働局の相談窓口」に連絡・相談をしてください。
二重派遣を回避する方法2つ
二重派遣を回避する効果的な方法は以下の2つです。
- 大手の派遣会社に登録する
- 仕事の指揮命令がどこから出ているか確認する
1.大手の派遣会社に登録をする
二重派遣を回避する効果的な方法1つ目は、大手の派遣会社に登録することです。
知名度の高い大手の派遣会社はコンプライアンスがしっかりしているため、二重派遣が起きにくいからです。
また、大手派遣会社はネット検索すれば口コミ評価もたくさん見られるので、過去に二重派遣があったかどうかは登録前に確認できます。
派遣されたあとも派遣スタッフに対してフォローをしてくれる派遣会社なら、万が一、二重派遣が起きても相談しやすく素早い対応も期待できます。
トラブルを避ける選択肢として、大手6社と言われる以下の派遣会社は候補先にあげられます。
大手派遣会社の中から登録先を選ぶ際は、「大手派遣会社ランキング|172人の口コミ調査で大手6社を徹底比較」の記事も参考にしてみてください。
2.仕事の指揮命令がどこから出ているか確認する
派遣先で働くときは、仕事の指示がどこから出ているかに注目してください。
派遣社員への仕事の指揮・命令は「派遣先企業」がすると、派遣法で決められているからです。
派遣先企業(派遣先A社)から他の会社(派遣先B社)に送り込まれた場合でも、仕事の指示を派遣先A社が出していれば二重派遣になりません。(下図1)
一方、送り込まれた先の会社(派遣先B社)から指示を受けて仕事をする場合は二重派遣となります。(下図2)
まとめ
二重派遣は違法行為です。
二重派遣かどうかを見分けるポイントは次のとおりです。
- 最初に派遣された企業とは違う企業で働いていないか
- 仕事の指揮命令はどこから出ているか
二重派遣は派遣社員にとって不利なことばかりです。
二重派遣を避けるためには大手派遣会社に登録するとともに、万が一、二重派遣されていることに気づいたらすぐに派遣会社へ相談しましょう。
最後に当記事の監修者お二人からアドバイスいただいたので紹介します。
そもそも二重派遣はなぜ禁止されているのでしょうか?
「なんだかんだ言って仕事はできる訳だから少々契約がグレーでもいいんじゃない?」
…働く側からするとある意味もっともな意見です。
・中間搾取が発生することにより労働者の手元にくる賃金が安くなる
・指揮命令権の所在があやふやになり、事故等によるケガの補償やミスにより損害が発生した時の責任の所在が不明確
などは容易に想定できますが、禁止される大きな理由は「不当な人員整理が合法でできてしまう」ことです。
労働関連法の共通定義でもある「労働者保護」の概念からすると大きなリスク。
「二重派遣だからって今の仕事に支障はないし…」ではなく、本文を参考に自分の身は自分で守ることが重要です。
キャリアコンサルタント
川村 琢也氏
大手人材会社に15年、研修会社に3年在籍し、現在、HRコンサル会社にて教育プログラム管理、人事評価制度構築、求人コンサルティング、紹介エージェントをしつつ、フリーで研修講師、キャリアコンサルタントとして活動中。
”二重派遣”という言葉は、あまりなじみのない言葉かもしれません。
それがゆえに、自分自身が二重派遣の状態に置かれているかどうか判断がつけれないということも間々あります。
法律は、文章が難しいこともありなかなか理解することが難しいかもしれませんが、労働関係の法律は”労働者保護”がベースの考え方であり、それを知ることは自分を守ることに他ならないのでしっかり理解しておくことが大切です。
社労士事務所志 代表
村井志穂(むらいしほ)氏
椙山女学園高等学校 椙山女学園大学卒業
人事労務関連のソフト会社に入社後、カスタマーサポート・マーケティング・システム開発に携わる。
社会保険労務士資格取得後は、システムエンジニアとして勤めつつ、自身の事務所を開業。システム開発の経験を活かした、Office製品を利用した業務効率化ツールの提供も行っている。
- 調査対象:派遣社員として働いた経験がある人
- 調査期間:2020年3月19日~21日
- 調査機関:自社調査
- 調査方法:インターネットによる任意回答
- 有効回答数:100人